本題の前に私自身と格闘技/不良について

私はジ・アウトサイダーのDVDで観ることができる試合はセル版を購入していたので全て観てきた。会場に足を運ぶほどではなかったので自分がアウトサイダーマニアなどとは思えないけれど、それなりに熱心に観ていた。
ブレイキングダウンも、アウトサイダー出身の朝倉未来が始めることなので第一回から現在までPPVを購入して観続けてきた。特にアウトサイダー出身選手が参戦するようになってからは選手たちの現在の姿が見れるだけでも嬉しかった。しかし最近ブレイキングダウンへの批判が多く集まる状況の中、自分も最近のブレイキングダウンに対して思うことがあるので文章化してまとめようと思う。

それを書く前にまず私と格闘技、不良との関係について簡単に書いてみる。どんな人物がこれを書いているのか疑問に思う人も居ると思うので。

私が直接格闘技と接したのは伝統派空手(松濤館流)で小1から小4まで習っていて、小5のときに出来たサッカー部に入部するために辞めた。その後高1のときに少し再開したがすぐに辞めた。
なので格闘技経験自体はそこまで深くない。
観るほうについては実際の格闘技の試合よりも格闘マンガのほうが過激(現実で同じことをしたら取り返しのつかないことになることも漫画の中でなら許されるので)で面白かったので、試合をまったく観ない訳ではなかったけれど格闘マンガを割と広く読み続けていた。『グラップラー刃牙』や『喧嘩商売』などの過激なものだけでなく『はじめの一歩』や『オールラウンダー廻』などの競技ものも好きだった。映像コンテンツだとUFCの第一回大会や猪木の異種格闘技戦シリーズ、ブルース・リーの映画などが好きだった。
ここで気になったのは最近気になることとも関係していることだが、最近特に若者の間で使われる格闘技という言葉の意味がかつてと変わってきていると感じる。
本来、格闘技とは格闘の技のことなのだから、それにはレスリングやボクシングなどのスポーツ競技、空手や柔道などの武道、軍隊格闘術、護身術、喧嘩術など広く含むものである。

『Wiktionary』ではこのように書かれている。


格闘技(かくとうぎ)
主に自分の体を使っての攻撃や防御を行う技術、スポーツ競技、それを基にした興行。

しかし最近、特にYouTubeや興行の会見で、若い選手たちが格闘技という言葉を総合格闘技とイコールの意味で用いている場面をよく目にする。また、格闘技の中でもスポーツ競技に限定した意味で格闘技という言葉を使われる場面も多い。
「〜〜は格闘技か?」ということがよくSNSなどで議論になっているが、そもそも格闘技という言葉の使われ方が曖昧になっている状況に思える。

少々脇道に逸れたが、次に私と不良との関係について。まず私は自分がヤンキーやツッパリの類だと思ったことはない。暴走族やギャングなどの組織に所属したこともない。ただ、不良かと言われると学生時代は決して品行方正ではなかったので、そういう意味では不良かもしれないけれど、音楽が好きでそれに関係する場で遊んでいたような学生時代なので遊び人寄りのほうである。所謂ヤンキーのように誰かを威嚇したり攻撃的になったりするタイプではなかった。

そんな自分がなぜヤンキー・不良関係のコンテンツに興味を持ち続けているのかといえば、ヤンキー漫画からの影響が大きい。色々読んだけれど最初は多分『ろくでなしBLUES』だった。その後はより過激で派手な演出の多い『疾風伝説 特攻の拓』にハマった。こうしたヤンキー漫画が好きだったことが後に不良が関わる格闘コンテンツが好きになる土台であったことは間違いない。

『ジ・アウトサイダー』との出会い

2000年台、PRIDEやK-1などの多くの格闘コンテンツが盛り上がっていた頃、自分はDJ活動やイベントオーガナイズ、そのほかの仕事で忙しかったこともありそこまで色々はチェックできていなかった。そんな中、2008年に前田日明プロデュースの『ジ・アウトサイダー』がスタートした。私は確か実話誌で大会のレポートが掲載されているのを読んで存在を知った。そのときは「アマチュアの低レベルな総合の試合をお金を払って観たいとは思わない」と思った。
しかしレンタルビデオ店で何気なくアウトサイダーのDVDを手に取ったときに目に入ったフレーズが強く私の気を引いた。パッケージに渋谷莉孔の異名として「リアル刃牙」と書かれていた。それでレンタルしていざ観てみて、渋谷莉孔の異様な存在感に魅了された。それだけではなく、特に試合前の選手紹介と煽り映像がしっかり作られていてとても面白く、ヤンキー漫画を読んだときの興奮と同じものを覚えた。回を重ねるごとにストーリーが生まれていく様も面白く、すぐにアウトサイダーに夢中になった。試合後の前田日明による解説も面白かった。試合自体も面白かったが、プロの興行を観るのとは違う面白さがあることがわかった。私が尊敬している苫米地英人博士が関係していることにも魅かれた。それで以前の大会もセル版を購入し以降DVDはすべて購入した。

『ブレイキングダウン』との出会いと『ブレイキングダウン』の変遷

そして『ジ・アウトサイダー』の大きな大会も開かれずDVDも発売されなくなってしばらく経った2021年にレディオブック株式会社の主催で『ブレイキングダウン』がスタートした。アウトサイダー出身の朝倉未来と朝倉海は最初はアドバイザーだった。その後、朝倉未来は2023年2月にBreakingDown株式会社のCEOに就任した。
1分1ラウンドでルールはキックボクシングかMMAという形式は、スタート時から現在まで変わっていないが、初期は会場がトライフォース赤坂である関係上タトゥーを入れた選手を採用できないという背景があったため、現在のような不良コンテンツ色は薄かった。空手、空道、柔道、日本拳法、相撲、システマなどの選手が参戦していて異種格闘技戦の色が濃かった。第一回大会では菊野克紀が元大相撲力士の野尻和暉に勝利したり、“システマ芸人”みなみかわをシバターがギロチンで締め落としたりと、私は特に不良もののコンテンツとしてではなく楽しんで観ていた。
その後、カラーが一気に変わったのは第四回だった。対面の集団オーディションはこのときから始まった。こめおが山川そうきをオーディション内で蹴り飛ばしたシーンがYouTubeで公開された。私を含めた多くの人が「これを公開して大丈夫なのか?」「蹴り飛ばしたのに普通に出場できるのか?」と驚いた。しかしその光景は目新しいものだったため、多くの人は戸惑いはあったかもしれないがそれが刺激的に映ったようで、この現在まで続くオーディション形式によってブレイキングダウンの人気は火が付いた。以降「失敗した人や機会に恵まれなかった人に手を差し伸べる大会」ということを標榜し、所謂不良やヤンキーと呼ばれる人々を積極的に選手として採用するように変化していった。

私が最近のブレイキングダウンをどう見ているかというと、不良や過去に失敗した人に手を差し伸べること自体は悪いことではないし、口喧嘩程度であれば試合を盛り上げる要素にもなるので、コンテンツとしての魅力は感じている。しかし、最初にこめおが直接蹴り飛ばしたときから思っていたけれど、直接手を出すことを許容してしまうのは危険過ぎる。人間は少し打ちどころが悪かったという程度で簡単に死んでしまう生き物なのだから。少々手を出すことを可としたとしても、会場セットの中に武器にできるものが無い状態にしたり、柔らかい壁や床の場所にするといった配慮がされていないようで、あまりに危険過ぎると思う。過去のABEMAの『朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円』では会場セット柔らかい素材で作られていて、武器として使用できるものは無い状態になっていた。ブレイキングダウンのオーディション会場にはそのような配慮が見受けられない。
そして争いを止めるタイミングが遅過ぎる。挑発し合う二人が接近するといった、手を出すことが容易に予想できる状況でも、おでこの押し付け合いや胸ぐらを掴むといったところまでは止めていない様子で、これは「小競り合い程度なら話題になるから問題ない」と主催が許容していて、セキュリティにそのように指示を出しているからだろう。さらに、直接暴行を加えた選手を本戦に出場させる。
しかし、それを許してしまえば世間からも暴力の肯定と受け止められても仕方がない。懸命に格闘技を研鑽している人たちから「あんなものは格闘技ではない」と一緒にされたくないと思われても仕方がない。

『ジ・アウトサイダー』と『ブレイキングダウン』の比較、そして願い

対してアウトサイダーはどうだったかといえば、乱闘騒ぎは度々起こっていたが、前田がそれを奨励していた訳ではなく、仕方なく起きてしまうものだった。アウトサイダーは地下格闘技と称されることがあるが、アウトサイダーは地下格闘技ではないと公式ページにも書かれている。

「THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)」とは、リングス・前田日明が現代版「明日のジョー」を探すため立ち上げた、アマチュア格闘技イベントです。
青少年健全育成を主たる目的としており、暴走族をはじめ、不良達の更生の助力となるべく前田日明が2008年3月に旗揚げしました。以後、年間4~6回の大会を定期的に開催しています。
「THE OUTSIDER(ジ・アウトサイダー)」は地下格闘技と言われているものとは全く異なり、世間一般で見向きもされなかった不良少年たちに活躍の場を与え、格闘技を通じ更生を促します。
尚、不良のみならず、これまで会社員・医者・弁護士・放送作家といった職業の選手も大会に参加しており、経歴・職歴は問わず一つのルールのもと、リングの上で雌雄を決する格闘技イベントです。
やがては出場者の中から優秀な逸材をみつけ、格闘技界の次代を背負う選手の育成も視野に入れています。

http://rings.co.jp/about_the_outsider

アウトサイダーははっきりと「不良達の更生」を掲げている。不良を不良のまま喧嘩させることは良しとしておらず「格闘技界の次代を背負う選手の育成」を目的としている。だからこそ自分は堂々と応援してきた。
個人的によく覚えているのが、R.S.RYOが植田雄太を締め落とした後に蹴りを入れた場面で前田が「勝ったにも関わらず負けた方に蹴りを入れるなど言語道断。ノーコンテストにします」と没収試合の裁定を下したことだった。アウトサイダーの姿勢がわかりやすく伝わってきた一場面だった。

ブレイキングダウンは「失敗した人や機会に恵まれなかった人に手を差し伸べる大会」と謳ってはいても、機会を与えたその先のことについては非常に曖昧なままの状態になっているように私には映る。喧嘩自慢の不良がトレーニングに打ち込むこともせず試合に勝ち、知名度と大金を手にしたとして、その後のことは知ったことではないという態度のように思える。

朝倉未来は11/9の公開練習後の会見でこのように語っていた。

(ブレイキングダウンについて)
「今の時代は視聴者側が決めるし、視聴者の受け取り方次第なので、いくら不良の再生が伸びても『こうなりたくない』って思う人がいればそれが正解だし、僕らがどうこうするっていう話ではないのかと思います」

私が思ったのは「更生する意志の無い不良に影響力と経済力を与えた場合、そして暴力を明確に否定しないコンテンツを送り出した場合なにが起こるのか、想像していないのだろうか?」ということだった。基本的に朝倉未来のことはずっと好きで応援しているので、この発言は正直残念だった。
また、ブレイキングダウンが表立って「不良の更生」を謳わないのは、コンテンツ戦略としてアウトサイダーとの違いを明確にする必要があるからなのだろうかとも思う。

前田は自身のYouTubeチャンネルでのブレイキングダウンとアウトサイダーの対抗戦についての動画内でブレイキングダウンについて「人生を変えるとかなんとか言うんだったら、いまの運営の仕方じゃ人生変わらないんですよ」と話している。
私は、選手は出場すれば出場しなかった場合とは違う道を選ぶことになるので変わるとは思うが、変わった先が必ずしも良いことが待っているとは限らないのが現在のブレイキングダウンだと思う。多少アウトサイダーと近いところのあるコンセプトになってしまったとしても、不良を扱うコンテンツである以上良い方向へ導くものとはっきり示さなければ世間からの受け止められ方は相応のものになる。
アウトサイダーの遺伝子を受け継ぐ朝倉未来だからこそ、多くの人を良い方向へ導く術を探り続けて欲しいと思う。最近、朝倉未来は自分に期待しないで欲しいといった話をしていたが、これは単なる一ファンからの期待ではなく願いだ。