ステロイド外用剤依存の存在を認める医師や治療家の間でも、ステロイド剤を使用した場合、身体に蓄積されたステロイドが長期間残留するのかということについては意見が分かれるようです。

残留するとする方々の多くは、新潟大学大学院医歯学総合研究所名誉教授(国際感染医学・免疫学・医動物学分野)の安保徹博士による「ステロイド外用したステロイドが局所で酸化されて酸化コレステロールを生じる」という説を支持しているようです。

この説について深谷元継医師は「私はというと、安保先生のこの仮説には非常に戸惑いを感じました。というのは、仮説のよりどころとなる基礎論文がまったく無かったからです。ステロイドを外用した皮膚は、外用していない皮膚に比べて酸化コレステロールが多く沈着しているといった、動物実験でも患者の皮膚でもいいのですが、根拠のような論文があるのだろうか?と、当時調べてみたのですが、どうもそういうものはなく、安保先生が、まったく直観的に構築した仮説であるように思われました」としたうえで「しかし、その一方で、安保先生の仮説は、最近の医学論文に照らし合わせると、ステロイド依存のメカニズムを考える上で、ひょっとしたら大きなヒントを与えてくれていたのかもしれない、とも感じます」とも記しています。

私も安保氏が何かしらステロイド材が酸化コレステロールを生じるという根拠とした実験結果があったのでないかと調べてみたのですが、そのようなものは見つけることができませんでした。しかし、安保氏の大衆向けの著者ではなく、論文であればそれにあたる情報を見つけることができるかもしれないと思い『安保徹の原著論文を読む―膠原病、炎症性腸疾患、がんの発症メカニズムの解明』(三和書籍)を読んでみました。しかし、そこには安保氏の仮説の詳細は記されていたのですが、実際にステロイドを使用していた患者や動物の皮膚から、ステロイドが変性した酸化コレステロールを発見したというような実験結果などは載せられていませんでした。『安保徹の原著論文を読む―膠原病、炎症性腸疾患、がんの発症メカニズムの解明』によれば、安保氏はステロイドホルモン含有軟膏を使用していたアトピー性皮膚炎患者の血液から好酸球および顆粒球の高値とリンパ球の低値が見られ、それはステロイド由来の酸化コレステロールが交感神経緊張を誘発した可能性を考えました。そして患者の血液の過酸化脂質の高値と、総胆汁酸値の低値は、ステロイド由来の酸化コレステロールが交感神経優位を引き起こしたためと仮定しました。安保氏はステロイド剤を使用したアトピー性皮膚炎患者に対して鍼治療を行い、アトピー 性皮膚炎の治療に成功しました。治療が成功した患者の皮膚からは、治療中に膿が排出されたが、しかしステロイドの使用を中断せずに鍼治療を行っても、効果は限定的、または無効であったそうです。この治療結果が、ステロイドホルモン剤が酸化コレステロールへ変性したという仮説の根拠であるとしています。しかし「本仮説は未だ推測の域を出ない、従って他の諸原因も考慮する必要がある」とも述べています。安保氏の酸化コレステロール仮説を根拠として、自身の治療の正当性を説明する治療家が多い現状ですが、安保氏自身が述べているように、ステロイド剤が酸化コレステロールに変性したという説はあくまで仮説であるということは認知しておくべきだと思います。確認された事実のように酸化コレステロール仮説を持ち出すのは、誤った判断を招く可能性があり、憂慮すべきことだと思います。

②では、深谷氏が「安保先生の仮説は、最近の医学論文に照らし合わせると、ステロイド依存のメカニズムを考える上で、ひょっとしたら大きなヒントを与えてくれていたのかもしれない」と説明していることについてと、その事についての私の所感を書いていきます。

ステロイド剤は身体に長期間残留するのか②