ステロイド剤は身体に長期間残留するのか①

深谷氏は、ステロイド外用によって、表皮細胞・繊維芽細胞のコルチゾールの産生能力(ステロイド自体による正のフィードバック)に異常が現れることから、外用ステロイド長期連用後は、あまりに過剰に存在する組織のステロイド濃度を減ずるために、表皮自身が通常とは逆のコルチゾール不活化の経路を活用し始めるのではないかと考えました。そして内因性のステロイド(コルチゾール)が不活性型の酸化物であるコルチゾンとなって、細胞のどこかに蓄積される可能性を指摘しました。もともと、組織での需要に応じて、すばやくコルチゾン→コルチゾールに変換して分泌するメカニズムですから、コルチゾンの貯留場所は存在するはずだからということなのだそうです。これは安保氏の「酸化コレステロールの蓄積」のイメージに似ており、これが深谷氏が「安保先生の仮説は、最近の医学論文に照らし合わせると、ステロイド依存のメカニズムを考える上で、ひょっとしたら大きなヒントを与えてくれていたのかもしれない、とも感じます」としていた、深谷氏による仮説です。

詳細

この深谷氏の仮説については、私はそういう可能性はあるのかもしれないと思う一方、違うも考えが頭に浮かびました。

炎症のメカニズムについて調べていた際に「独立行政法人科学技術振興機構(JST)」が「CREST」と「さきがけ」という制度で推進している研究の内容と、その関連情報を紹介するページ内に「炎症の起こる理由(メカニズム)」という記事を見つけました。その中に以下の文がありました。

炎症は、異物や死んでしまった自分の細胞を排除して生体の恒常性を維持しようという反応と考えられます。例えば細菌やウイルス(一種の異物です)が体の中に侵入しようとした時に、さまざまな細胞などの生体内成分がその排除に働いた結果が炎症性反応です。それらの反応の中には、予め体の中に用意されている直ちに働く成分による反応と、やや時間をかけて一旦その異物の構成成分を解析してから強力に攻撃する時に後から作られる成分による反応があります。
前者の反応が開始するのに重要な成分として、ヒトには存在しない細菌やウイルスの構成成分を認識するセンサーが、あらかじめ体の中に存在することが、最近になって分かってきました。

炎症の起こる理由(メカニズム)

現在治療に用いられている合成ステロイド(デキサメタゾンやベタメタゾンなど)は、生理的な副腎皮質ホルモンのコルチゾールを基に、A環に二重結合を加え、9位にフッ素または16位にメチル基の導入により、グルココルチコイド作用増強およびミネラルコルチコイド作用減弱を図ったものです。つまり、副腎皮質ホルモンといっても、人間の身体から産生される副腎皮質ホルモンとは化学式は異なるものです。
人体で産生される副腎皮質ホルモンとまったく同じものではないということです。

深谷氏の仮説のように、内因性コルチゾンの蓄積によって身体に異常をきたすということは有り得るのかもしれません。しかし炎症とは身体が異物と認識したものを排除しようと起こすものと考えた場合、過剰に蓄積された場合でも、内因性のものが原因でそこまで大きな炎症に発展するものなのかという疑問が浮かびます。

私は、安保氏の仮説のようにステロイドが酸化コレステロールに変性したものが蓄積されるのではなく、合成ステロイドは何か別な形へ変性し、身体に残留したものが炎症を引き起こしているのかもしれないと考えます。グルココルチコイド作用増強およびミネラルコルチコイド作用減弱を図った合成ステロイドはコルチゾールとは違うのだから、その異なる部分がうまく処理されず、なんらかの形で残ってしまうのではないかと。安保氏が報告している「患者の血液の過酸化脂質の高値」はステロイド剤の残留物そのものではなく、ステロイド剤が変成したものが、その状態を引き起こす何らかの要因として身体に残留しているのかもしれません。

あるいは、ステロイドの内因性か人工物かに関わらず、ステロイドが変成した残留物の何かが「患者の血液の過酸化脂質の高値」を引き起こしているのかもしれません。狂牛病などまだメカニズムのわからない病気があることからも解るわかるように、科学もまだ未完成のものですから、今後の研究で解ってくることもあるかもしれません。

合成ステロイドがリバウンドの原因であるかどうかは、コルチゾールの長期間または大量の投与でもリバウンドが起きるかどうか実験することで確かめられそうですが、私が少し調べただけでは、そのような研究は見つけることはできませんでした。何かコルチゾールと合成ステロイドの比較の実験が無いか、今後も探してみたいと思います。また、これを読んだ方の中にもし研究者がいらっしゃいましたら、ぜひこの実験を実施してみていただきたいです。